スタジオ・サニーサイド

札幌を拠点に活動する、ゲームのサウンド&シナリオ制作スタジオです

ゲームサウンドの容量を減らすには 〜ステレオ/モノラル編〜


ラジオ体操で全身筋肉痛。こんにちは。banです。


えーちょっと今回から方針を変えまして、
サウンドが専門外のゲームクリエイターに、ゲームサウンドの取り回しのアレコレを知ってもらう、
というようなテーマで色々書いてみたいと思います。


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ゲームの音屋の仕事に常時ついて回るのが「容量」「データサイズ」という問題ですね。
今はゲームの容量も肥大化して、昔のゲームでは必須だった爪に火を灯すがごとき容量倹約はせずとも良くなりましたが、
ダウンロード配信という新たな事情も発生してますので、すいません!容量減らして!という要望は時々あったりします。
最近も、とあるプロジェクトでクライアント様から
「サウンド容量をどうにか減らしたいんですが、どうすればいいですか?」
という相談を受けたことがあったのですが、
サウンドファイルの基本的な知識があれば、
音屋でなくとも容量削減の見積りはかなり正確に出せるようになります。


例えば、ここにCDからリッピングしてきた状態のwavファイルがあるとしましょう。
時間はキリよく1分ジャストとします。
これの容量はというと、だいたい10.7MB。
私が若手の頃は「1分10メガ!」と覚えていました。
1分でこれですから、たとえば2分程度の曲が10曲ありますぜ、というだけで容量は200MBにも達してしまうわけです。でかいな。




ステレオ波形の例




このCDからリッピングしたてのwavファイルは、
サウンドファイルの形式としては下記のような状態になっています。

  1. チャンネル:ステレオ
  2. 量子化ビット数:16bit
  3. サンプリングレート:44.1kHz


この状態は、いわゆる「CDクオリティのサウンドファイル」と言われるものですね。
ここから、それぞれのステータスを調整して、容量を削っていくことが出来ます。


ただ、ここには一つの大原則があります。それは
「音質は容量に依存する」ということ。
つまり、良い音質を確保するためには、どうしても容量が必要になる、ということです。
従って容量を削減すれば、必然的に音質は犠牲となります。
雑に言うと、容量を半分にすれば、音質も半分にしたなりのモノになってしまうのです。


ですから、容量を削る場合は、最終的に求められる音のスペックや、
許される音質の最低限界を意識しつつ、落とし所を測る必要があります。
いくら容量を削っても、出音がガビガビのボケボケでは意味がありません。
そこで、いかに容量を削りつつ、音質を下げないようにするか…。
そこが、音屋の腕の見せ所でもあるわけですね。
では、実際にどのように容量を節約してゆくか、具体的に紹介してまいりましょう。


1.チャンネル


こっちはモノラル波形の例。容量が半分




元ファイルがステレオならば、これをモノラルに変換することで、
容量を半分にすることができます。これはでかい。
先のテストケースだと、波形編集ソフトでStereo To Monoの処理を行った結果、
容量は5.3MBになりました。ほぼきっちり半分。


容量削減としては効率が非常によろしいので、
じゃ全部モノラルにしちゃえばいいじゃん!となりそうですが、そこは考えどころです。
モノラル化することで、ステレオファイルにあった音の左右の広がり感が失われます。
その影響で、音楽などでは聴いた印象が変わってくる場合もありますし、
場合によっては、左右のチャンネルを合成することによって、音が消えてしまうこともある(!)ので、
「モノラルにしても差し支えない素材」を選んで、モノラル化すべきでしょう。


ただ、せっかくステレオで作ったものを、最後に全部モノラルにしてしまうのでは効率が悪いので、
実際の制作の現場では、広がりを必要としない音は最初からモノラルで作り、
必要な音のみ、ピンポイントでステレオとして作る、というケースがほとんどです。


例えば、ゲームではボイスや効果音素材はだいたいモノラルで扱われますが、
「広範囲の爆発音」「森の中の鳥の声」といった自然な広がりを持つ音や、
「ゲームスタート音」「アイテムゲット音」といったゲームのハイライトとなる音は、
特にステレオで作って、臨場感を持たせたり、音響的にもハイライトとしたりする事が多いです。


ただし、再生される環境を考えた場合、
ステレオで素材を持つことが、オーバースペックとなってしまう場合もあります。
例えば、一部のアーケードゲームのように専用筐体を使うゲームの場合、
筐体のスピーカーが最初からモノラル仕様であることもあります。
こういうときは元素材をステレオで作っても全く意味がありません。
いたずらに容量を食うばかりか、筐体の仕様次第では、
ステレオの片方のチャンネルの音しか出ない可能性もあります。これはこわい。


また別の例ですが、iPhoneの本体スピーカーはモノラルです。
しかし、イヤフォンをつければ、音をステレオで聴くこともできます。
本体スピーカーで音を鳴らすことが多いアプリなら、
あえてすべての音をモノラルにしてしまい、容量を浮かせるという選択もアリでしょう。
逆に、イヤフォンをつけて没入して聴いて欲しいのであれば、
BGMなどはステレオのままにしておいたほうがベターです。
このように、プレイ環境と、容量と、作り手の意図を総合的に考えて、
落としどころを決めていきます。




【まとめ】ステレオ/モノラルの選択で、サウンド容量を節約するには?

  1. 再生ターゲットとなるハードウェアの、サウンド仕様を確認する。
    1. →モノラル限定か?ステレオOKか?
  1. 容量を割いて音をステレオで聴かせる重要性が、どのくらいあるか考える。
    1. →音に広がりを持たせることが、ゲームにとってどのくらい重要か?
    2. →それは、容量というコストを割いて実現する必要のあるものか?
  1. 検討の結果、必要と認められた音に限り、ステレオで制作する。

…これらがきちんと素材作成の段階で考えられていれば、
ファイルがモノラルであるか、ステレオであるかの最適化は初めから行われていることになります。
従って、無駄な容量の浪費も抑えられている、というわけです。


ただ、作ったあとで、どーーーーしても容量を大幅に削らなくてはいけない場合も時にはあります。
あるんですねこれが。
そういうときの非常手段として、モノラル化という選択肢があることも覚えておくべきでしょう。





では次に2.の…あっ。ずいぶん長くなってしまった。続きは次回に!