スタジオ・サニーサイド

札幌を拠点に活動する、ゲームのサウンド&シナリオ制作スタジオです

Wwise-101技能検定に合格しました!そしてADX2との比較など

気がつけば2020年もあと4ヶ月とか。嘘でしょ。banです。

 


さて、仕事の都合でまとまった時間ができたので、ここぞとばかりにサウンドミドルウェアの勉強をすすめておりました。最近ではあちこちでごく当たり前に採用されておりますね。一言で言えば、ゲームのサウンド管理や演出を、極力サウンドデザイナーの手で完結できるよう支援してくれる開発環境です。プログラマーさんに面倒な仕組みを作ってもらわなくても、サウンドのフェードアウトやダッキング、地面の素材による足音の鳴らし分け、ゲームの進行に従って変化する音楽や環境音、といった仕掛けを、サウンドデザイナーの手元で簡単に実現できます。

 

 

Unityサウンド エキスパート養成講座

 こんな本を読んだりもしてました

 


このサウンドデザイナーの手元で」というのが大きなアドバンテージです。サウンドの凝った仕掛けを目論む場合、プログラマーさんと二人三脚での試行錯誤が必須ですが、サウンドミドルウェアを導入することで、プログラマーさんの作業は最低限に抑えつつ、サウンドデザインの大きな自由を確保できます。単純に人的コストが大幅に下がるのもさることながら、プロジェクト終盤に多忙を極めるプログラマーさんの手を煩わせたり、バグ対応でカリカリしているところにビクビクしながら調整をお願いしに行ったり、という心理的なストレスから解放されるのも大きい。めちゃくちゃ大きい(涙)。

 


本邦ではCRI社の「ADX2」というミドルウェアが有名で、スマートフォンのゲームを中心に大きなシェアを獲得しております。わたしもADX2に関しては仕事でガッツリ利用する機会があり、いやあ便利便利。もっとみんなドンドン使えばいいのに。とその恩恵を受けておりました。

 

 

game.criware.jp

 


一方、海外ではAudiokinetic社の「Wwise」(ワイズ)というのが有名で、プラットフォームを問わずAAA作品からインディーズまで様々なタイトルに採用されております。

 

 

www.audiokinetic.com

 


こちらは未体験だったのですが、ここらでひとつ仕事の幅を広げよう、というつもりで勉強することにしてみました。Audiokinetic社はユーザーの裾野を広げることに力を入れていて、チュートリアル用のドキュメント、動画、サンプルプロジェクトなどがめちゃくちゃ充実しています。日本語にもちゃんと対応してくれてるのが素晴らしい。

 


しかも、所定のカリキュラム終了後にオンラインで検定試験(有料)を受けることができて、合格すれば認定ユーザーのライセンスが得られる、という明確な目標設定もあります。今回はWwiseの基礎部分を網羅したWwise-101技能検定のクリアを目標としました。

 

 

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こんな感じで教材が用意されています。動画もアリ。

 

 

というわけで、SE制作と実装部分を中心に一通り勉強してみたわけですが、特に「ADX2との比較」という点に注目しつつ、以下雑感。

 

 

  • 基本的な「できること」については大きな違いはナシ。インタラクティブミュージック、ゲーム展開やプレイヤーステータスによる音の変化、条件付けによるサウンド素材の鳴らし分け、リバーブなどのエフェクトの付与など、できることはだいたい同じ、というかかなり似通っているとも言えます。

 

 

  • ただ設計思想は明確に違い、ADX2が、トラックを基本としたDAWチックな設計思想なのに対し、Wwiseの方はオブジェクトの連結と親子関係を基本とした、電子ブロック的な考え方。ADX2は見た目にもDAW的なので、もともと音楽・音響制作をやっている人にとっては機能が直感的に判るのが強み。一方Wwiseの方はオブジェクトの連結や内包関係を利用することでかなり細かく演出を作り込むことができ、凝ろうと思えば果てしなく凝れてしまう懐の広さが強み。ただし見た目はかなり無骨なので、ちゃんとお勉強しとかないと何がどれやら…。

 

 

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ADX2のオーサリングツール、CRI Atom Craft。そこはかとないDAWみ。

 

 

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こちらはWwise。うーん無骨。

 

 

  • Wwiseの方は細かい使い勝手の良さが行き届いており、圧縮前/後の音声をいつでも聴き比べできたり、容量が想定からはみ出たらアラートを出してくれたり、CPUパワー節約のためにエフェクトをボタン一つでレンダリングしてくれる設定があったりと、かゆいところに手が届きまくるのがうれしい。

 

 

  • ADX2の方はというと、作り込みの自由度の点では及ばないものの、独自コーデックによる音声ファイル圧縮で、特に人間の声に特化して高い圧縮効率と音質を両立。さらに音の遅延が起こりがちなAndroid端末の弱点をカバーし、専用の遅延防止機能を持っているため、ボイスを多用する国内のスマホゲーや、遅延が許されない音ゲーに関しては依然高いアドバンテージがあります。(Wwiseの圧縮は一般的なOgg VorbisAACADPCMなど)。

 

  

  • いずれも使用するには当然ライセンス料がかかりますが、未経験者や小規模デベロッパーへの敷居を下げるため、一定の条件下で商用利用も可能な無償プランが用意されています。ADX2の場合はADX2 LE、Wwiseの場合はStarterプラン。細かい条件は公式サイトを参照のこと。

 

 

結論としては、やれることに大差はないものの、長所に個性があるので、ゲームの仕様や内容に合わせて使い分けるのが吉っぽいですね(無難な結論)。

 

 

 

 

 


……というわけでWwise技能検定ですが、じっくり時間をかけてカリキュラムを履修した後、「クイズ」と称した模擬試験を受け、合格ラインの90%をクリアしたので受験料を払って本番です。クイズの段階でも結構歯ごたえのある問題や、引掛けなどの意地悪な問題があったりしましたが、本番はさらに意地悪な問題もあったりするので要注意。90分という時間制限はありますが、ドキュメントやツール自体の参照は禁じられていないので、きちんと理解が行き届いていればクリアは難しくないでしょう。

 

 


そして……無事クリアしました〜!うひょ〜!

 

 

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今回クリアしたのはWwise-101という基礎部分。この他にも201(インタラクティブミュージックの作曲、実装)、251(プラットフォームごとの最適化)、301(Unityへの実装。上級者向け)といった各種検定試験もあります。こちらも面白そう&タメになりそうなので、試験を受けるかはともかく勉強してみたい所存です。たまには脳髄も使っとかないと錆びるしね。私からは以上です。