スタジオ・サニーサイド

札幌を拠点に活動する、ゲームのサウンド&シナリオ制作スタジオです

ゲームの音をキレイに盛りつけるためには/曲の切り替え編(2)

札幌も春っぽくなってきて、今こそ満を持して言える。
「41歳の春だから…」
こんにちは。banです。




えー先週は多忙のためうっかり休んでしまいました。すみません。
では前回の続きです。





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曲や効果音といった素材を、ゲームという器にいかにキレイに盛りつけるか、というテーマで、
前回は「曲を止める際はフェードアウト処理を入れて!」というようなことを書きました。


いや今読み返すと、これどう考えても初歩の初歩だよなあ。
こんなこと改まって書く必要があったのか。おい。と疑問に思わなくもなかったのですが、
しかし何事も基本を踏まえる事が大事ですし、
それに実際の現場でも、これを守っていない場面にはしばしば出くわすので、
地味な話ですが、こつこつ書いてみようと思います。基本は大事。大事は基本。




さて今回はジングルにまつわる話です。
ジングル、と一口に聞いた時、どういう音楽を思い出すでしょうか。
有名なところだと、「ゼルダの伝説」のアイテムゲット時のアレとか。
ドラクエのレベルアップ時のファンファーレとか。
スーパーマリオブラザーズ」のミス時の曲とか。


一つのゲームの中には様々なジングルが入っておりますが、
それはゲーム全体の音の流れの中で、アイテムを取った、レベルが上った、ボスを倒した、などなど、
展開における一つのハイライトとなるような使われ方をしていると思います。


曲が、ゲームの背景で淡々と流れ続けるのに対し、
ゲームの流れにおける「展開のハイライト」を音で担うのがジングルです。
当然、曲の合間に挿し込まれたり、あるいは曲に被さるようにして流れたりする訳ですが、
「レベルが上ったからジングル鳴らしとこ」という単純な操作だけでは、気持ちのよい流れは生まれません。


ありがちで、かつよろしくない例をひとつ。
「曲を流しっぱなしにしたままで、重厚なジングルを再生する」
といった場面を、実際のゲームでもときおり見かけることがあります。
これ、瞬間的にですが異なる曲を2つ同時に再生していることになり、
その2曲が音楽的に邪魔しあって、非常に耳障りな結果になってしまうのです。


これは、ジングル再生において一番避けたい状態と言えるでしょう。
耳障りなだけではなく、ジングル再生で狙うはずの音のハイライト効果も活きませんし、
場合によっては出音のひずみという実害を誘発することもあります。


ではこうならないために、どのような制御が必要になるか、というと、
おおまかに下の2つに分けられます。



1)曲を一旦止めてからジングルを再生し、その後に改めて曲を再生する。


えーまったくこの図通りの処理ですね。もちろん曲を止めるときには、短めのフェードアウトを入れます。
展開によっては、ジングル終了後に曲を差し替え、雰囲気を変える、という演出もあり得ます。
その場合、ジングル部分とジングル終了後の曲を一つのデータに統合してしまい、
曲再生の処理を単純化するという手法もありますね。


曲を完全に止めてしまうので、ジングル再生後はまた曲が頭から鳴ることになります。
なので、曲切り替えのスパンが比較的長めになるような、ゲームの場面が大きく変わるような箇所で使用すべき手法でしょう。
例えばアイテムゲットのような、ゲーム中頻繁に起こる展開でこの処理を入れると、
ジングルが少し流れるたびに曲が頭に戻されてしまい、
せっかくの曲が頭の十数秒だけしか聞けない、というようなことになってしまいます。
こういう場合は、次の手法を使うことになります。



2)曲の音量を一旦落としてからジングルを再生し、その後曲の音量を復帰させる。



1)における曲停止処理の代わりに、一時的に音量を下げる処理を入れます。
この場合も、音量操作のときはフェードタイムを設けて、なめらかに行うのが基本です。
音量の下げ幅ですが、ちまっと下げても意味が無いので、ガッツリ下げが基本となります。
この時、音量をゼロにしてしまうという選択肢も当然アリです。むしろこちらのほうが使用頻度が高いでしょう。


アイテムゲットなどの、ゲーム中に頻繁にジングルが鳴るような展開の場合は、
この処理を使うことで、音の流れをぶった切らずに、
自然にジングルが挿し込まれた感じで繋いでいけるようになります。
開発環境によっては、曲の音量をゼロにする代わりに、
一時停止することで似たような流れを作ることも可能な場合があります。


音量をゼロにするか、少し残すかの使い分けですが、
通常は、曲とジングルの音楽的干渉をできるだけ避けるため、ゼロにする方が無難です。
音の流れをバッサリ断ち切った感じにしたくないなら、音量を少し残す方で。


なお、音量を少し残す場合ですが、前もってその様な流れになることが判っていれば、
ジングルの方を、できるだけ曲に干渉しないようなアレンジにする配慮も必要でしょう。




ジングルを流す場合は、主にこうした2つのパターンが使われます。
が、ジングルが更に頻繁に鳴るような場合、いちいち曲のボリュームを下げてると何だかまだるっこしい!
という場合もあります。そんな場合は…!



3)BGMはそのまま鳴らしっぱなしで、ジングルを鳴らす


これ、最初に悪い例として上げた処理ですが、実は絶対にNG!という訳ではないのですね。
ただしその場合は、素材の製作時からそのような鳴らし方を想定しておく必要があります。
具体的には、ジングルを作る際、曲に被って鳴らすことを前提として、
被ったときの干渉ができるだけ起きないようなアレンジで作る、ということです。


例えば、

  • 調性が希薄になるような和音を用いる。もしくはシンプルにする。
  • リズム隊は省く。
  • 低音を担う楽器(ベースなど)も可能なら省く。


となると、トランペットや笛が、ユニゾンで一発「パパラパ〜」と吹くだけ。伴奏もなし。
みたいなジングルになってきます。
こうなると、ジングルとは言え、もはや効果音のような扱いになってきますが、このへんの境界は非常に曖昧です。


私は個人的に、

  • 曲に重ねて鳴らしてOKなもの → 効果音
  • 曲と重ねて鳴らすのがNGなもの → ジングル

というように区別するようにしています。





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というわけで、音の流れを構成する際には、
並べ方だけでなく、音の機能や性質をもかんがみる必要があるのですね。
これは、サウンドの発注をどのように行うか、というプランニングの話にも直結してきます。
その辺りは次回に触れたいと思います。