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スタジオ・サニーサイド

札幌を拠点に活動する、ゲームのサウンド&シナリオ制作スタジオです

意外と知られてない音量調整の話 〜後編〜

専門外のためのサウンド講座 ban

ご無沙汰してました。やっとブログを書く余裕が出て来ました…。こんにちわ。banです。




えー前回の続きです。ゲームサウンドの音量調整の話。(前回はこちら)
サウンドデータやプログラムからの制御で、音量をガッツリ上げるのは実は難しいんだぜ。と言う話でしたが、
それでも音量調整の工程で、どうしてもここの音に迫力を出さねばならん、というケースは往々にして生じます。
が、データやプログラムの音量パラメータは既にMAXですよう、というような場合、
次に取る手段としては、「元のwavファイルの音量を上げる」というのがまず思いつく手段です。
しかしそれは意外にカンタンな問題ではないのだよ、というのが前回までの話。


それはなぜか、という理由を理解していただくために、ちょっとwavファイルの性質について触れてみます。
一般に、wavファイルを波形編集ソフトで開くと、下のような毛ダワシのごときグラフが表示されます。





Peak7(波形編集ソフト)にて表示




このグラフ、縦軸は音量を、横軸は時間を示しています。
ですので、縦軸の位置が高いところに振れているデータは、単純に音量も大きい、ということになりますね。
そして、wavファイルの音量を調整する時は、一般的に波形のゲインと呼ばれる値を調整します。
ゲインを上げれば、波形の縦の振幅は大きくなり、下げれば小さくなります。


この縦軸ですが、実は上限が決まっています。
上記の波形の画像では、グラフの縦軸がパーセンテージで表されておりますが、
これが100%のところまで振れていると、音量的にはもう上限に達している、ということになります。
視覚的には、波形のピーク(突出したところ)がグラフの上下の端に接していれば、これは音量MAXということですね。





MAXまでゲインを上げてみたところ
ピークがグラフの幅いっぱいに振り切っている




では、すでにピークがMAXに触れている波形のゲインを、仮にムリヤリ上げてやったらどうなるか。
…こんな感じになります。







波形の幅は大きくなりました。つまり、音量は上がったということです。
が、波形のピークの部分が平たく潰れてしまっています。
これ、どういうことかというと、波形が潰れている=音が変わっちゃってる、ということなんですね。
具体的には、再生するとブツブツ、バリバリとした非常に耳障りな歪みノイズが発生しています。
つまり、
wavファイルの限界を超えてゲインを上げてしまうと、歪んで不快なノイズが乗ってしまう、
ということなのです。


ですので、wavファイルの音量を上げるときは、
その波形に残されているゲインの余裕を超えないよう、気をつけて上げてやる必要があります。
波形編集ソフトの多くには、波形にどのくらいの上げしろが残されているかを表示する機能があるので、
その値を常に監視しながら、ゲインを調整することになります。





ゲインMaxまであと6dBの余裕が有るよん、という表示(左下の丸囲みの数値)




上の画像を例にとれば、黄色い矢印で示した部分の幅だけ、音量を上げられますよ、という事になりますね。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




えーここまでの説明で、音量いっこ取ってもなかなか取り回しが厄介、
ということがお分かりいただけるかと思います。
例えば、効果音のwavファイルのゲインを、一括で同じ値だけ上げたい、という操作も一見簡単に思えますが、
実際のところ、ファイルの中身次第では歪んでしまうリスクがあるため、なかなか面倒です。
また、音によっては下図のような場合もあります。





いけずなピークちゃん




波形の途中に、このように一瞬だけ突出したピークがあるような音ですね。
この場合、出だし部分の音量が小さいのに、突出したピークの部分で上げしろが潰されているため、
もはや音量を上げることができない、という状態にあります。


なかなかにもどかしい状態ですが、しかしこれをなんとかする方法というものはモチロン存在します。
一般に「マキシマイズ」と呼ばれる処理を行うことで、
ピークが飛び出している部分を歪ませることなく、音量を上げることが可能になります。


マキシマイズとは、波形のピーク部分を圧縮して小さくすることで、
ゲインの上げしろを強引に作ってしまう、という音声処理です。
この処理を行うと、飛び出していたピークが金槌で叩かれたみたいに平らになるので、
音屋の間では良く「ピークを叩く」と表現されます。





マキシマイザーを通してピークを叩いたところ
上げしろに大きく余裕が!




波形だけを見ると、激しく叩いたためにピークが平らになっており、
一見歪んでいるように見えますが、実際の音にはノイズは発生していません。これがミソ。
マキシマイズは非常に便利なもので、さっき例としてあげた「複数のwavファイルの音量を一括で上げる」といった処理も、
これを使うことで歪みの発生を気にせずに行えるようになります。


ただ、この技術とても万能ではなく、
ゲインを稼ぐためにあまりに深い「叩き」を行うと、
今度は音そのものが変化してきて、非常に耳が疲れる音になったり、
さらにはwavの限界突破とはまた別の歪みが発生してくるので、際限なく音量を上げられるわけではありません。
また、ある程度深く叩いた時点で、聴感上の音量はそれほど上がらなくなり、
ゲインを稼ぐべくさらに叩いても、音量はさほど上がらずに音が潰れていくばかり、というような状況になっていきます。
もともと、wavファイルに限らず、あらゆる録音媒体には歪まずに記録できる音量の限界というものがありますから、
その限界に近づくことは出来ても、超えることはできない、ということですね。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




このように、音量稼ぎに関しては色々と制約があります。
ゲームの音なら、のちのちの音量調整にそなえ、
音素材を作った時点で既に多めにゲインを稼いでいることがほとんどなので、
限界に達するまでの「上げしろ」も、それほど潤沢に残っているわけではありません。


ある音を際立たせたいなら、その音量をムリに上げることを考えるよりも、
他の音の音量を下げることを考えた方が、うまくいく場合も多いものです。
ゲームのサウンドは、全体のバランスが大事ですからね…。おっ上手くまとまった気がする。私からは以上です。